2008/08/07

哀しき熱帯

「何も持たない」という意味の名前を付けられた国の話。

 僕はこの「何も持たない」国から来た青年から、この国についてのレクチュアを受けていた。日々は過ぎ、実際にこの「何も持たない」国へ前述の青年と訪れた。

 都会を離れ、奥地へと向かう。

 乾いた空気、刺す様な日差し、赤茶けた大地、まばらに生える木々。

 ここに住む人々は強い日差しにから体を守るため、赤い土を体に塗り、申し訳程度に布きれを体にまとっていた。

 青年は何かを恐ろしげに彼らを見つめる。

 成人した男が、岩に腰掛けながら何かの肉を捌いていた。肉の足下は糞尿にまみれ、その糞尿の中で子供が何やら遊んでいる。

 よく見るまでもなく、彼が今まさに解体しようとしているのは人だった。

 既に上半身、肩から胸にかけて解体は終わったようで、そこにあるはずの首も、腕も無くなっていた。

 生きている間に解体を始めたのか、足下には糞尿が垂れ下がっている。

 青年は恐ろしげに、ここから僕を連れて離れようとする。

 僕は人を解体する親子?の姿に釘付けだった。


 その姿は美しさに満ちていた。




 という夢を見た。


 夢の中で、ときおり使ってきた「哀しき熱帯」という言葉がこういう事なのだろうと腑に落ちた。

 遠く離れていた人々が出会う。

 お互いを育んできた文化が出会う。

 彼ら人を喰う人々の文化がどういうものだったか僕は知らない。
 動物も捕れず、植物も育たない、その土地に生きる人々に戸ってそうすることは当然の事かもしれない。が、日本という国に生まれ育った僕からしてみれば酷く野蛮な事だと感じる事は出来るし、おおよそ、殆どの人々がそう感じると思う。

 それぞれの文化に優越は無いけれど、ネットの網が世界を覆い、飛行機や船、車、利便性を享受する僕たちはいずれ彼らの文化を侵略し、淘汰してしまう可能性を持っているが、この事に無自覚でいられる。

 夢だったけれど、これは遠い世界の話じゃない。

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