2009/08/20
2009/08/18
哀しき熱帯 : 昨日の夜に
昨日の夜、僕は逃げ出した。
路上でキスをしたその後に。
「話があるんだ、ちょっと来てくれない?」
ワイパーに挟まれた手紙。
その時の僕はなんの危機感も持たず、ただ彼女の申し出に素直に従った。
南国に移り住む人々にはそれぞれに事情を持って移り住む。
仕事で、逃げ出そうとして、夢をみて、何かを捨てようとして、救いを求めて、ただ好奇心に突き動かされて。人の数だけ理由があり、大抵の場合それは他人に語るに複雑ではあったものの、それをサカナに一晩飲み明かせる程度に楽しい話題だった。
他の移住者がそうであった様に、僕が移住した理由もやはり適度に複雑だ。仕事でやってきた僕は、好奇心に突き動かされて移り住んでしまったけれど、現実から逃げ出しモラトリアムを享受しようとしたし、写真家という夢を見ていたし、僕を捨てた父親との関係に救いを求めてたようにも思う。
会う人会う人にその理由を説明するうちに、その理由が一つでは無いことに気が付く。だが一年もしない内に言葉を重ねるのも億劫になり、やがて、南国に呼ばれたんだ、とだけ説明をする様になった。
彼女とであったのは僕が島に移り住んで少し立ってからだ。
少しだけ僕の方が先に島にやって来てた。
僕自身がそうであった様に、彼女は彼女の物語の中にいた。
気がつくべきだったと思う。
僕は彼女に何も語る事なく、また、彼女の話を何も聴こうとしなかった。
呼ばれると言う一言。
それは実に便利で、甘美で、人を盲目にする危険な言葉だ。
そのことに気がついたのはそれからずっと後の事だ。
路地裏を二人で歩いた夕暮れを思い出す。湿った空気に、大きな水たまりと
駐輪場、ラーメン屋の排気ダクトから流れてくる油の匂い。
でも、何故あのとき僕は彼女の話に耳を傾かなかったんだろう?
罰なんだろうか? 夜が明け始める。見上げると
金星が輝いていた。
どうしてこうなったんだろう?
2009/07/29
2009/07/19
海人醤油 : もやしを湯がいて作る、あれ。
なんていうの、韓国料理でこうあるやん、もやしをゆがいて作るあれ。
あれを作ってみた。
材料はもやしと以下の調味料。
で、もやしはまずさっと茹でて、水にさらして、熱が下がったらギュッと一回しぼっとく。
しぼったもやしに、ごま油と塩こしょう、海人醤油をてきとーーーに、混ぜ合わせて、
ネギをさっと振りかけて、
混ぜて、完成。
おいしいよー。
さて、調味料で一番気になるのは「海人醤油」だと思います。
他のはその辺りのスーパーに行けば普通に手に入るしね。
この「海人醤油」だけれど、石垣島の58カンパニーさんが作ってます。
http://go-ya.asia/r/
今手元に無くて正確な所はわかんないんだけど、だし醤油とお酢にみりん、それから島唐辛子が絶妙にブレンドされているお醤油で、暑い夏にぴったりのお醤油になってます。
ただし、島唐辛子が入ってて入れ過ぎに注意。
島唐辛子はめちゃめちゃ辛いからそれだけは気をつけて。
2009/07/18
哀しき熱帯 : 黒い男
僕は彼を結局好きにはなれなかった。
とにかく粗暴でずる賢く、それでいて繊細な心を持った厄介な奴としか僕は思っていなかった。
黒く焼けた肌、歯が抜け歪んだ口元に、鋭い目、かつては白かったであろうノータックのパンツ、絵に描いたような七三分けの髪の太った中年。
それが彼だった。
彼はいつも鏡を見る。
髪を櫛で綺麗に梳かし時間を忘れ鏡を見つめる彼。
僕がカメラマンであるという事を知ると、会う度に僕に写真を撮れとせがんだ。初めのうちこそ気持ちよく撮っては来たが、度を過ぎた頻度で行われるため、そのうち僕も辟易としはじめ、そのナルシズムにぞっとした。
彼の粗暴な人格や世間の評判を聞くうちに、僕自身も彼に会いたいとは思わなくなったし、そうそう会う事も無かったのだが、後にも先にも、写真家である僕に写真を撮る事を嫌がらせたのは彼だけかもしれない。
彼に直接その理由を聞いた事は無い。
一目見ればわかる程に、彼の身体には特徴的な欠損があった。
共通の知人に尋ねたことがある。彼は自分の一部を自分で " 噛み " 切ったそうだ。
それが本当の事かどうか僕は知らない。また、彼には臍がもう一つあるという話も聞いた。
やはり自分で腹に刃物を突き刺したそうだ。
一度だけその傷を見た事がある。
シャツをだらしなく(彼的にはセクシーに)着こなした彼が、うん、と伸びをした際、確かに臍の上にもう一つへそのような傷跡がちらりと見えた。
今年の春、彼は刃物で自分で斬りつけた。傷口は数十カ所に及んだという。
このとき一命は取り留めたのだが、その後処方された薬を大量に飲み干し他界した。
彼は傷だらけでいつも何かに怒っていたし、いつも何かを恐れていた。
それも激しく。
自分の身体を歯で噛み切り欠損させる程の激情など、僕には想像も及ばない。
のどかな南国の島々の風景と、彼が出会った物語があまりにかけ離れすぎていて戸惑う。
蝉の鳴き声も聞こえない、音が焼けそうな程の強烈な夏の日差しを思い出した。
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