「うん?」
「さっきもうちの店に来てくれましたよね?」
「ああ、そうですね」
彼の第一印象は変な人、だった。気温は30度を超えた正に真夏日。
ジーンズに長袖のシャツ。それからカメラでも入っているのだろう、大きな荷物。
見ているだけでこっちが暑さに参ってくる。かといって汗をかいてるようでも無く、汗腺がダメにでもなってるんだろうかと疑った程だ。
北国の人なのか、もしかしたら外国の血が混じっているのかもしれない。
色白で少し彫りが深い顔になんだか不思議な雰囲気を漂わせていた。
開け放した窓のそばの席に彼が腰掛ける。
風がツンと海の香りを運んで来た。
「いらっしゃいませ」
お冷やをテーブルに置き、メニューを彼に差し出す。
彼が顔を上げ、私の目を見て言う。「ありがとう」そうそう人生経験が豊富というわけでも無いけれど、たかがウエイトレスにちゃんと目を見てありがとうと言う人は少ない。
へぇ、あんがいしっかりした人じゃ無いか。
彼がメニューに目を落とし、再び顔を上げると私にこう言った。
「エスプレッソ下さい」
予想外の答えに自分の耳がおかしくなったように思う。
厨房を振り返るとおじぃが首をひねっているのが見えた。
「あの、エスプレッソはアイスとかが無くて、ホットなんですが」
「ええ。ホットので」
不思議な物を見るような目で彼が私を見つめる。再び厨房を振り返るとおじぃがうなずくのが見えた。
壁にかかった温度計を確認すると 32℃ 。
間違いない。
今日は真夏日で、Tシャツが汗で張り付いて気持ちが悪いのも夢じゃない。
「かしこまりました」
彼に一礼し、きびすを返し厨房へ戻る。
好奇心が沸々とわいてくるのを感じ、思わず顔がにやけた。
そして数時間後、再びやって来た彼が遅い昼食に冷やし中華を食べた後、声をかけてみたわけだ。